神様、
許可をいただけませんか。





『壊れる世界に捧ぐお別れの歌』





演奏が 途切れ、



「・・・まだ、ここまでだ」



肩を竦めてみせた。



「・・・・・・あなたの音ですね」

「今まで出せなかった音だよ」

「世界一優しい音って、これなんじゃないかなぁって、思いました。」

「褒めすぎだ」

「本当ですよ」



嬉しかったのは言う間でもない。

























「・・・・・・・で、本当は何しにきた?」

「あいっかわらず嫌な人ですねー、ピアス返しに来たって
言ってるのに」

「うん、そうか。で、何しにきた?」

「・・・・・・あんまり酷いと泣いちゃいますよ」

「それは鬱陶しいな」

「人でなし!」

「人間じゃないのはあんただろう」





今に至っても二人はこんなかんじ。





「だから何しにきた」

「昔を思い出すと会いたくなってしまって」

「それだけ?」

「・・・・・・何か期待してます?」

「いや何にも」

「・・・・・・・・・なんて言ってほしいんですか」

「好きとか愛してるとか」

「告白待ちとかあなたどんだけ情けないんですか」

「病人だからな」

「そんなことを言い訳にしない!」

「迷ってるんだよ」





とてもそうは聞こえないような声でそう言った。





「・・・え、何を・・・・・・?」

「・・・・・・」

「なんですか」

「・・・・・・あんたが、このまま一生俺の前に現れなかったら、
もう悩むこともなかったんだけどな」

「私が悪いんですか?」

「九割くらいは」

「・・・・・・なんなんです、一体」





わかってるくせに。






























「一緒にいたいなぁ、と思いました」














「・・・・・・私と?」

「そう」

「ずっと?」

「出来れば」

「それって・・・・・・・」

「ごめん」

「・・・・・・はぁ?」





「多分幸せに出来ない」























恐らく、これから死ぬまで病院暮らしで、
症状は進むだけで治ることはなく、
そのうち自分でいられなくなる。

そんな男に、彼女を幸せにする力なんて、














「バカですね」


























「そんなの、私が幸せにしてあげますよ」


































今になっても、彼女はやっぱり彼女で、
男前だった。


































「・・・・・・幸せにしてやれる保障は、ないんだけどな」





彼女は穏やかにこっちを見ている。
それに勇気付けられた。





「大事にするって約束する」















「だから結婚してください」















そしたら彼女は今まで見た中でも最高の笑顔で。

















「はい」




















そんなただの口約束で、俺たちは結ばれて。





後悔はないかい?





「私は生まれてから今まで、一度も後悔したことがないのが
自慢なので」





彼女はそう言って笑う。





「後悔しないように、ちゃんと選んで生きてます」





あなたと、と、手を取って、その手には指輪。

自分の指にも、同じように光るものがあって。





「・・・・・・幸せだ」

「あなただけじゃないですよ」

「そうか?」

「あなたに負けないくらい、幸せです、私」





暫く見つめてキスをする。





「もう何も要らないくらい」





そんな大きなものを前に、死は足音を止める。







これから一生彼女だけ愛してくんだ。







溢れるくらいの気持がどっと押し寄せて、
彼女を抱きしめた。

























少しの時間を許された、きっと長くはないけれど、
二人で寄り添って生きていくつもりです。



だから神様、どうか邪魔しないで、













お願い、します。